第二巻 愛の渇き・青の時代・夏子の冒険「愛の渇き」☆ 悦子は良人・良輔をチフスで亡くし、義父・弥吉の元に身を寄せている。 事業で成功したのを引き払い、田舎で隠遁生活を送る弥吉の家には、他にも 良輔の兄夫婦や使用人が共に生活しているが、広大な果樹園や畑の管理に 雇われた三郎に、悦子は次第に心惹かれ始め、やがて惨劇が訪れる…。☆ ロレンスの「チャタレイ夫人の恋人」の雰囲気も感じる作品。 時代背景からしても強きものと思われる男性優位で始まるような 悦子と男性陣との関係性が面白く。 ひたすら放蕩の良人の帰宅を待ち侘びる庇護されるべき妻が、 良人の病と同時に庇護する側に回り、その死の後は 義父のもとで施しを受けるか弱き嫁に戻ったかに見えて その実、この老人に施しを与えている。 彼女は本来、なにものにも寄らない自由な女。 ただ、彼女も知らない、復讐の未完了への情動を除いては。 使用人である三郎も本来、なにものにも寄らない男。 彼を必要とし、寄りかかるのは主人方の方であり、 施しを受けるかに見えて、施しているのも彼の方。 未完了の復讐が、完了形となったとき、 悦子は彼女自身を滅ぼした恩寵に安らうのです。 「青の時代」 ☆ 腕の良い内科医を父に持つ川崎誠は、一高から戦争をはさんだ後 東大に進み、見た目にはほとんど挫折なく人生を送っていた。 恋愛に関しても、知性と計画性で臨み、自己満足していたが あるとき父から託された多額の預金を投資で失ってしまう。 学友の愛宕にのせられて、学生ながら投資会社を設立した誠は 成功を収めたかのようにふるまい続けるが…。☆ 「夏子の冒険」 ☆ 裕福な家庭に生まれ、美しく奔放で多くの恋人を持つ二十歳の夏子は、 突然、修道院に入ることを宣言する。 浮世に別れを告げ、母、祖母、叔母に付き添われて 北海道の修道院に向かった夏子は、その旅の途中、 恋人を熊に殺され復讐に挑む毅に出会い、運命を変転させてゆく…。☆ |